[教員インタビュー]皆が表現者の現代をうまく生き抜いてほしい。

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[ interview : 池川 亜聡/永松 雄太 ]

正と負の両面を併せ持つネット社会

ある大学生はTwitterに不適切な動画を投稿した末に炎上、内定が取り消される事態に。ある会社員も同様の不祥事を起こして解雇。ほかにもネット詐欺、いじめなど、いわゆるインターネットトラブルが後を絶ちません。ネット社会について考えるとき、多くの人は便利さと同時に、こうした負の側面も思い浮かべるのではないでしょうか。社会学部の前田先生はネットが社会に及ぼす影響とともに、ネットの使われ方を通して時代や社会の特徴を明らかにする研究を行っています。

「SNSを例にとると、ポジティブな側面よりも負の感情のほうが伝わりやすい傾向があります。あるいは突拍子もない目立ち方をしようとする傾向も強まる一方で、一つの流れができると皆が同調してエコーチェンバーといわれる現象を引き起こしてしまう。炎上はまさにそれ。中間がないのが特徴です。それによって傷つく人もいるというのは、ネットの持つ恐ろしい側面です」と前田先生。

他方、ネットを生きる支えにしている人たちもいます。生きづらさを抱えながら仲間と出会う手段のなかった人たちがネットを介してつながり、個人が特定できない匿名だからこそ本音を交換し、支え合う関係を築いています。前田先生はこうした点にも関心を持ち、実際に精神疾患を患う人々へのインタビューを通して、ネットが役立っている側面も調べています。「よい方向でも悪い方向でも、ネットを使わないと実現できない新しいことが可能になる。そこに興味を覚えたのが研究のきっかけですね」。

マイコン時代にヒントを求める研究

日本でネットが爆発的に普及し始めたのは、ブロードバンドサービスが開始された2000年代に入ってから。ネットのなかった時代は遠い昔ではありません。前田先生は1970年代から普及したホビーパソコン「マイコン」時代のユーザー文化に関する研究も進めています。ネット以前の“不便”な時代。当時のマイコン関連雑誌の記事や読者投稿欄などの内容を分析し、マイコンという新たなテクノロジーに対して人々がどんな希望を抱き、どのような利用法を見いだそうとしていたのかを調べています。
 
「今はいろんな情報に簡単にアクセスできる反面、その利用方法を立ち止まって考えることが難しい時代になっています。簡単過ぎるから思考が伴いにくい。マイコンはインプットに対してアウトプットが返ってくるだけの代物で、ネットワークにもつながっていません。できることが本当に限られていたので、一歩立ち止まって考えざるを得なかった。だからこそ、使う側に創意工夫がありました。今の時代だからできにくいことを、ネット社会以前の事実を振り返りながら浮き彫りにし、伝えていきたいと思っています」。

「表現を甘くみるな」

ネットというテクノロジーに対する基本的な認識について、前田先生はインターネットの父と呼ばれる米国人科学者のヴィントン・グレイ・サーフの発言を引用して説明します。
「サーフは『ネットへのアクセスは基本的人権か?』と問われ、即座に否定しています。そうです。ネットは、言論の自由など権利を行使する道具になりえますが、権利そのものではありません。ネットなしに生きていけないという意識は、そう思い込まされているだけ。そこは押さえておきたい点です」。
そのうえでネットとの正しい付き合い方について「単なる情報の消費者にならないこと。ネットは個人が簡単に情報を発信できる環境を提供しています。そこをうまく活用して、人を動かすようになれるかどうか。追大生にはネットというテクノロジーをうまく使って、抜きん出る存在になってもらいたい」と、これはSNS世代である学生たちに向けた言葉。前田先生はさらにこう続けます。
「表現を甘くみるな、と言いたいですね。安易な表現で大変な事態に陥ることのないようにしてほしい。言い換えると、すべての人が表現者の時代をうまく生き抜いてくださいということです」。
今後SNSへの投稿を行う際には、ぜひこの言葉を思い出してほしいものです。


前田 至剛 准教(社会学部 社会学科)

2005年関西学院大学 社会学研究科博士課程単位取得満期退学。皇學館大学文学部講師・准教授、流通科学大学人間社会学部准教授を経て、 2018年より社会学部准教授。担当科目(2020年度)は「現代メディア論」「マンガアニメの社会学」「マスコミ論」。ゼミではアイドル、マンガ、アニメなどのオタク文化を研究する学生も多い。「入口は趣味でOK。でも楽しむだけなら研究ではない。本ゼミではそれを学問に発展させる」。